2012年7月5日木曜日

いよいよ始まった,21世紀の”まちづくり”

この記事は,住宅生産性研究会(理事長戸谷英世)発行のメールマガジン第456号から転載させて戴きました。21世紀の理想的な住宅地開発モデルの一つだと思います。

尚,掲載者の判断で,キーワードと思われる語句をベージュ色に表示しました。註は,掲載者がWikipedia等から引用致しました。

HICPM第456号ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この事業は日本におけるニューアーバニズムによる住宅開発事業として、最も意欲的に取り組んだ事業です。福岡市の「荻浦ガーデンサバーブ」を紹介致します。
ガーデンシティーの駅(ロンドンの北55km)

欧米の110年以上の住宅産業経験に学ぶ

1900年に自称「都市経営の発明者」ハワードが提唱した「ガーデンシティ」の夢とその実践をニューアーバニズムの計画手法の実践結果を、GKK・HICPMの研修ツアーとして実施した現地研修ツァーに㈱大建松尾社長は出かけ、その理論と実践の成果を実体験をしました。この研修ツァーは、GKK・HICPMの実施してきた住宅地開発のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)です。

つまり、欧米の優れた住宅地の調査を実施し、西欧先進国の住宅産業の技術や経験と、欧米各地で実践された110年間のガーデンシティの理論を展開した試行錯誤の結果を現地で研修するものです。松尾社長は、欧米におけるその理論と実践の研修を通して、日本においてこれらの理論を実践できるということに確信を持ちました。松尾社長は、欧米の住宅地経営理論を信じ、その理論と実践とをつき合わせ、それを福岡県糸島の条件に読み替え実践した成果が「荻浦ガーデンサバーブ」です。

「荻浦ガーデンサバーブ」の挑戦

この住宅地の完成した姿をできるだけ早い時期に、現地での研修ツアーを開催できるようにしたいと思っています。現地見学に先立って、今回は、この計画の基本となったことを私の理解している範囲で説明したいと思います。HICPMはこのプロジェクトにたいしては、松尾社長の要請を受けて、欧米の住宅産業の知識・技術と経験を技術移転する役割を担って、最初から㈱大建の顧問として計画に参画し、欧米の住宅産業で実現している日本からみた夢の実現に取り組みました。その基本は、以下のようなことです。
荻浦ガーデンサバーブ

荻浦ガーデンサバーブのホームページ
http://oginoura.com/

第1.「アメリカンドリーム」を「ジャパニーズドリーム」にすること

「アメリカンドリームとはなにか」と多くのアメリカ人に聞くと、「自分の住宅をもつことだ」と言います。実は日本でも住宅をもつことを「身上をつくること」と言い、「恒産なければ恒心なし」と昔から言われたように、住宅をもつことは個人の経済的な安定基盤をつくることです。人は住宅をもつことによって安心して生活ができます。

住宅は個人の資産の中で最大のものであり、その資産が価値を増殖し続けることができれば、個人の生活は安全になります。そのためには住宅の資産価値が経年的に増殖するような住宅地開発と住宅地経営が必要になります。

個人の住宅資産価値の総体が国富です。住宅の資産価値が増加すれば、その純資産の大きさを担保にエクイティー(純資産)ローンが受けられ、個人の生活を豊かにするだけではなく、経済活動を活性化させます。その結果、地方税収を拡大させ、ひいては、国家全体の経済を活性化させることになります。

住宅を購入者に、住宅自体が売買差益を生むことのできるように建設し、経営することにより購入者を豊かにすることが、住宅地開発に取り組む第一の目的でした。住宅を購入者を幸せにすることのできる工務店こそ、社会の受け入れる工務店なのです。

第2.安心安全な住環境をつくること(その1:セキュリティ)

日本以外の世界中の住宅産業の関心は、モーゲージ(不動産担保金融)であるため、住宅金融機関は住宅の資産価値が融資期間内に下落しないことに関心をもっています。そのための最大の条件が「セキュリティ」です。


荻浦ガーデンサバーブ
自然災害と並んで犯罪と言う社会的安全が保障されない住宅に対しては、居住者が住みたがらなくなり、住宅市場は買い手市場になり、住宅の取引価格は下落しますから、金融機関は担保割れになります。そのため、そのような住宅に対しては融資をしたがりません。

世界の住宅では、販売後の住宅地経営がしっかりおこなわれていない住宅には金融機関がそっぽを向きます。日本では住宅の資産価値を問題にしないで住宅価格がつけられ、巨額な営業販売費をかけて売り抜け、後は手離れのよいようなやり方(詐欺師の手法)が住宅産業の常道です。

ゲーティ ッドコミュニティミュニティとかスマートハウスなど、既に半世紀前に米国で実践され「効果が統計的に証明済み」のハードなセキュリティ対策が、日本では、「こけおどしのセキュリティ対策」とされています。

欧米ではセキュリテイの実現方法は、ニューアーバニズムによる居住者が相互の違いを理解しあって尊重するコミュニテイづくり(「三種の神器」:①ニューアーバニズムによるマスタープランとアーキテクチュラルガイドライン(ハードなルール)、②住民が民事契約として締結した生活環境ルールと住宅地経営管理を、③住民全員参加の住宅地経営管理法人(HOA)が、住宅地開発業者の支援を得て実施しない限り実現できないことが経験的に明らかになり、実践されています。荻浦ガーデンサバーブは、日本で最初のニューアーバニズムによる「三種の神器」による住宅地経営の取り組み事例です。

第3.安心安全な住環境をつくること(耐震火災安全性) 

東日本大震災後、地震による地盤の液状化や耐震構造と地震に伴なう都市火災の問題が大きな不安として取り上げられるようになりました。「荻浦ガーデンサバーブ」は地盤の悪い地区で、「最小限の費用」で安全な住宅を建てるため試行錯誤の結果、「NCZ工法」という人工地盤工法を開発しました。これは幅5メートル間隔にコンパートメントを造り、非常に剛性の高い「コンクリートの船」による人工地盤を軟弱地盤に構築することにしました。基本構造として「岩盤と同様の構造的な強度ももっている人工地盤」を構築することができました。その地盤上に木造2階建て住宅を建築することにしたため、地震に対し極めて安全な建築となりました。NCZ工法による人工地盤は、コンクリートの巨大な棟が軟弱地盤に停泊している感じで造られていますが、構造的には船底に掛るか荷重を分布荷重に平準化することで、低い地耐力でも十分安全に釣り合っています。

コンクリートの船はその側壁にそって砂利層が造られその底部に集水管が設置され、地下水位が船体底部まで引き下げられることになります。その結果、地震時の地盤の流動化は完全に阻止されます。

仮に地盤が流動化することがあったとしても、その場合には、理論上、地盤が地震で流動化したときには、地盤の地耐力と摩擦支持力が失われ大海原に浮かんだ船のようになります。しかし、NCZ工法では、コンクリートの船として造られた人工地盤が地盤中に潜っていることによって、流動化した泥を排除する分の重量分の浮力が発生することになります。地盤が大揺れになったとしても、人工地盤は軸対称の構造で偏心荷重の状態ではなく、航空母艦が海原にあるような具合で、極めて安全な状態を維持することができます。

コンクリートの船という自重とそのうえに立てられる2階建て木造住宅及びそこに持ち込まれる家具や什器や居住者という積載荷重の合算と浮力とが十分にバランスするよう十分安全に造られています。

人工地盤の上に建築されている木造建築は、米国の建築法規上では、「ファイアーコンパートメント(防火区画)」の技術を使って、耐火建築物としての評価を受けている独立住宅が、隣地境界線に接し、遮音的には固体伝達音の伝播がないように、2,5センチの空隙をもって建てられています。そのため、耐震火災にたいして安全に造られています。

第4.エコロジカルでミューチャルアシスタントのできる環境

これまでの住宅地開発は自然環境を破壊し、エアコンと雨水排水と地盤面舗装によりヒートアイランドを造る環境破壊の住宅地でした。「荻浦ガーデンサバーブ」は、豊かな自然を回復し、昔の自然環境を回復することが、人間にとっても良い環境形成になるという欧米の住宅地開発技術に学び、開発地に降った雨を地下に浸透させ、貯留し、地下の恒温性を利用し、その地下水を各住戸に引くとともに、地上に大きな池を造り、その池の水が住宅地全体の緑を潤し、樹木の炭酸同化作用と水の蒸散による気化熱によって、真夏でも地方気象台発表の気温より3-5度程度低い環境を創り、エアコンを使わなくても過ごせる環境を計画しています。


荻浦ガーデンサバーブ
まだ樹木が小さいために、この地域の植生による森が形成されるまでは暫くは計画通りの環境を享受することはできませんが、樹木の成長とともに、次第に昔の自然が戻り、花木や樹木とともに昆虫、魚、鳥などが住みつくオアシスが育てられることになります。居住者のための菜園も計画され、野菜の自給なども可能になるだけではなく、居住者がお互いの違いを尊重しあって、生活することで農業の分担や子育て、介護、子どもの教育、習い事、手に職をもっている人の家内職、ホームオフイス、下宿など兼用住宅、半地階にある50平方メートルの空間を利用してお互いの得意とする能力を生かし、生活の糧の一部を補填することできるところです。街が人々とともに熟成し、限られた経費支出で豊かな生活のできる街が育てられることになります。

㈱大建は、今後下落する地価を考え、住宅を購入者に損失をかぶらせることがないように、土地をすべてリースホールドにし、個人の家計支出の3倍以下で住宅取引きができるとともに、毎月の住居費が公団や後者の賃貸住宅並みの負担で持家をもてるようにしています。この住宅地には多様なライフステージの多様なライフスタイルの人々が居住し、お互いがその異なる生活の仕方を尊重し合えるような街造りをすることになります。その方法としてこの住宅地を開発した㈱大建は、建設後の住宅地経営管理協会という住宅地の一元的な法人住宅管理主体の裏方として、この住宅地を計画し開発したノウハウを駆使して、住宅地の経営管理を下支えし、この地の住宅資産価値の向上に尽します。

㈱大建がやろうとしていることは、欧米工業先進国で110年以上掛けて「住宅による個人資産の向上に成功してきた事例」に倣って住宅地開発と住宅経営に取り組んでいるもので、わが国では誰もやったことのない途ですが、世界には多数の事例がある事業でその読み替えをすることできっと素晴らしい成果を産んでくれることになると思っています。

(特定非営利活動法人 住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)


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2012年7月4日水曜日

ニューアーバニズム

この記事は,住宅生産性研究会(理事長戸谷英世)の諸資料やWikipediaの記事などを集めて作成しました。


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20世紀初頭からのアーバニズム(後述)の失敗を反省して,20世紀に,お金を使わなくても、自らが自由な時間を使って、人間の絆を活かした生活環境を作るニュー・アーバニズムの計画理論が実践された。
ニューアーバニズム(New urbanism)とは、1980年代後半から1990年代にかけて、主 に北米で発生した都市設計の動き。ヨーロッパではコンパクトシティ、イギリスでは アーバンビレッジが同様の概念を打ち立てている。


(近年になって,このニュー・アーバニズムの考え方が農業(アグリカルチャー)と結びつき、アグリカルチュラル・アーバニズム(後述)が生まれた)


1980年代まで行われた「アーバニズム」の考えによる敷地の大きな郊外開発



チバリーヒルズに象徴される:
ワンハンドレッドヒルズ(One Hundred Hills)は、千葉県千葉市緑区あすみが丘で東急不動産が開発・分譲した高級住宅街の名称である。分譲開始は1989年(平成元年)であるが、2011年(平成23年)現在も販売中となっている。

バブル景気真っただ中の1989年(平成元年)に分譲を開始。この当時の一戸当たりの分譲価格は5億から15億円に上り、購入者の多くは節税対策を計る企業や、都心から離れていることから週末や来客用の別荘とするものであったと言われる。


ワイドショーでも広く取り上げられ、マスコミからはロサンゼルスの高級住宅街、「ビバリーヒルズ」をもじって、「チバリーヒルズ」とも揶揄された。報道の影響による来客が余りにも多いため、「家の見学お断り」の看板が立ち並んでいたこともある。
しかし都心から遠く交通の便が悪いことや、バブルの崩壊もあって、60件を予定していた分譲件数は38件程度に落ち込み、さらには家を手放す者も増えたため、一時はゴーストタウンの雰囲気をかもし出す場所となってしまった。


その後、暴走族などが勝手に入り込んで暴れまわるといった事態も発生したため、遂には住民以外の車両が進入禁止になった。
現在も分譲販売は継続されているものの、土地の分譲販売のみとなっている上、その分譲価格は実質半分程度となっている。その経緯から、「バブル経済の負の遺産の象徴」として取り上げられることも多い。

FTA時代という先進工業国に於いては、基本的に経済が右肩下がりに向かっていることを考えると、日本のバブルや米国のバブルで踊ったような都市の成長を続けることはありえなく、かつ、バブルで利益追求中心に考えた都市成長は、衰退又は調整局面を迎えてきているのである。


つまり、都市全体の中で、市民の地道な生活問題を捨象して、経済発展、利益追求を中心に取り組まれた都市は、これまでのような経済成長や利潤追求の都市空間であり続けられなくなっている。
それらの既存の都市空間を、都市住民にとって豊かな生活環境に編成しなおすことが求められるようになっている。その政治的な国民の意向を反映した取り組みが長期優良住宅地形成に対する政策である。

都市熟成の計画技法:ニュー・アーバニズム

ニュー・アーバニズムという都市の計画論は、このような社会経済的要求に応えることのできる計画論として1980年代から米国や英国やオランダやフランス、ドイツその他のヨーロッパの都市再編成にあたっての計画理論になっている。

それは、自動車を都市生活の場から排除して、基本的に徒歩による町を基礎単位として「人間の絆」で結ばれた自治団体を造り、その基礎単位にトランジットを使って「人々の徒歩のネット・ワークで構成された都市を繋いでいく」というと都市の編成が取り組まれている。

米国で始まったTOD(トランジット・オリエンティッド・デベロップメント)は、ポートランド(オレゴン)をモデルにしたトランジット(交通計画)による計画理論の実践である。

TODのベースとなっている都市の単位は、人びとの日常生活圏としての自治団体としてのコミュニティでなければならない。TODは,そのコミュニティを経済成長を推進する都市から、人々の豊かな生活を享受する都市へ転換するために、1980年代から日本以外の経済先進国で取り組まれた。

米国では、TND(トラデイショナル・ネイバーフッド・デベロップメント)、又は、ニュー・アーバニズムと呼ばれている。英国ではアーバン・ビレッジとも呼ばれているヒューマン・スケールの空間を人間の絆で繋ぐ生活を実現しようとする町づくりである。

宅地の区画には、見通しの利くフェンスや生け垣を原則とし、高さの低い塀を造るようにしている。そのことによって、隣との関係をお互いが「なんとなしに」分かり合って譲り合うといった「思いやりや、理解をしあう関係」として創りあげている。

このようなところが「人間の絆」を育てる計画の特色となっている。

ニュー・アーバニズムによるコミュニテイ計画は、そのコミュニテイの立地する土地の中心部(アーバン・コア)から、都心周辺部(アーバン・セントラル)、一般住宅地区(ジェネラル)、都市周辺部(エッジ)、郊外部(サバーブ)を経て、農村地帯(ルーラル、プリザーブ)へと遠隔化するに従い、その地価を反映して、都市開発密度により、住宅の建て方型式は変化していくことになる。

経済の成長に合わせて急成長し、スプロールしてきた都市を、もう一度、都市の人口密度や建築密度の高い中心部から、人口密度も建築密度も低い郊外部(サバーブ)へ、さらに、農村部(ルーラル)にかけて、夫々の都市の性格の違った部分ごとに、トランジット(LRT:ライト・レイル・ロード・トゥレイーンやシャトル・バス)の駅を中心に、夫々が独立した徒歩圏で造られたコミュニテイとして、その性格にあった都市整備が、ニューアーバニストたちによって提唱されてきた。


人々の絆を大切にしたトランセクトの考え方による近隣住区が形成された。

その都市再編成の取り組みの計画的整備手法・トランセクトは、都市の中心から農村部までの連続する市域を、都市又は農村的密度によって、不連続な上記6つの区域に分割して、夫々の区域の特性を考えた人々の生活を構想して、その構想に向けて熟成させる計画の考え方を示している。


この6つの都市・農村環境整備の一部が農業・農業保全地区(ルーラル、プリザーブ)の整備になる。

ニュー・アーバニズムの計画理論

住宅のファサード(正面)及び玄関及びリビング・ポーチは、歩道に面して設けられ、(歩行者と住宅のポーチにいる人との間で会話が出来るように計画し、「道路に目のある開発」「住民の注意が街並みに向けられ、よそ者に注意を払う町」とする。


各住宅は夫々個性を持ちながら、街並みとして歩道に連担する街並み景観(ストリート・スケープ)を街並みごとに「わが街」(アワー・ストリート)と感じることができるように、並木の選定、フェンスなど,街並みごとに一体性のある個性的な造りができるようにする。

この際の計画として重要な要素は、次の4点である。
イ.建築物の前面道路からの壁面後退の距離を遵守すること
ロ.外壁面の材料と工法、色彩及び様式の範囲
ハ.前庭の「芝・立木・花木等の植栽」及び標識
ニ.その他の工作物を街並み景観として調和するように定めること。

特に、農業を取り入れる観点からポーチや前庭で花卉・園芸・果実栽培を実施する場合には、農業と町並み景観との調和を考慮しなければならない。

同様に、各個性的な街並み景観が集合して、住宅地「ビレッジ」全体として、「わが町」,「アワー・ビレッジ」という帰属意識が持てるように計画する。この場合、もっとも重視しなければならない要素は、次の2点である。

イ.屋根の形態と屋根の材料、屋根葺材の材料、工法及び色彩の統一
ロ.煙突、塔その他高さのある工作物に関して波形感情の調和が乱されないように計画

ビレッジ・スケープは、町の遠隔からの眺望であるから、町全体としての一体性が表現されることが重要である。

街並み景観「ストリート・スケープ」と町並み景観「ビレッジ・スケープ」の担い手が各住宅不動産である。そこで各住宅不動産は、これらの景観計画を確実に実現するよう、敷地ごとに遵守するべき建築及び工作物の形態、意匠、材料、工法等に関する建築設計指針「アーキテクチュラル・ガイド・ライン」を制定する。


都市は長い時間をかけて造られ、時代の変化に合わせて変化するものである。長い時間かけても守らなければならないものと、拘らなければならないものをマスタープラン(都市開発基本計画)に、それに対応した建築物の遵守すべき形態・意匠規制をアーキテクチュラル・ガイド・ライン(建築設計指針)に定めなければならない。

住宅地のマスタープラン(基本計画)の計画理論

住宅開発敷地の歴史文化、気候風土、社会環境などの土地の性格と、そこに住むように計画している人のライフ・スタイルと、アイデンティティ(帰属意識)の持てる基本コンセプトで作られたストーリー(筋書き)とヴィジョニング(景観)に基づいて作られた土地利用基本計画のことをいう。

マスター・プランは、モザイク画にたとえると下絵のようなものである。開発の対象になる土地全体を有機的な人びとの生活の場として設計するものである。マスター・プラン自体は、開発する住宅地全体の完成した一つの絵柄を定める図面で、マスター・プランどおりの事業をする主体はいない。
 マスター・プランで定めた枠組みの中で、ここの宅地所有者は、モザイク画の中のモザイクの石を作り、それを並べるといった、一定の自由な工事をする。その指針がマスター・プランである。

アーキテクチュラル・ガイド・ライン(建築設計指針)で定める設計内容

マスター・プランを実現するために、個別の建築計画において遵守させるべき建築計画及び規制条件で、建築物の形態と配置に関する指針と、建築意匠に関する指針で構成されている。 
マスター・プランが都市計画とすれば、アーキテクチュラル・ガイド・ラインは建築基準法第3章に相当する建築規制である。それはモザイク画におけるモザイクの石をどの用に切断・加工し、どのように並べるかといった職人作業(クラフツマン・ワーク)の指針である。
アーキテクチュラル・ガイド・ラインは、マスター・プランとして定めた基本条件をここの建築設計・施工で護らせる指針である。

コミュニティ経営システム

イ.住宅資産価値の維持向上要求
 都市開発や住宅地開発は、開発事業者にとっては、開発事業期間しか関心はない。しかし、そこで住宅を購入する人達は、その人生の働ける期間全体に渡って購入した住宅ローンで縛られるわけであるから、その住宅資産が将来的に購入者の経済的支えとなってくれることを期待している。
 「いざというときに、経済的支え(換金又は担保)となってくれる住宅資産」であるから、住宅購入者が働ける間住宅ローンに縛られていても、その負担には我慢ができる。

住宅地経営管理には、専門的な技術が必要である。そのため健全な住宅地の経営管理を持続するためには、開発業者が開発を終了して一般の消費者に住宅が譲渡されて以降も、開発業者が、住宅地の経営管理の黒子として、住宅地経営管理支援機構として、「住宅に関し専門的知識敬遠のない居住者」を支援する体制が不可欠となる。
 住宅地開発として優れた開発が出来たとしても、一体どのようにしてその住宅地を健全に管理するかという専門家の知識と技術を必要とする問題は必ず発生する。

ロ.原点となる「ガーデン・シテイ」の都市経営
英国の「ガーデン・シテイ」における「リース・ホールドによる事業」の場合や、そのモデルになったランド・オーナーによるリース・ホールド事業の場合には、田園都市株式会社や、ランド・ロード自身が、開発事業に携わった開発業者を都市経営管理の専門家集団として雇用して、建設後の都市又は住宅地の経営管理を行った。

ハ。宅地分譲地での都市経営:デイード・リストリクション(土地・建築利用規制)
米国では最初開発業者が作成した「公正証書としてのデイード・リストリクション(土地・建築利用規制)」を、国家が保証する自由契約の原則に立った民事契約の履行で可能であると考えていた。
しかし、やがて、英国のガーデン・シテイ株式会社に相当する「統治機関」が必要であるということが確信持てたことから、コミュニティという概念を都市経営、又は、住宅地経営に持ち込むことになった。

(註:都市計画制度が生まれる以前には、英国には、デイード・レストリクション(Deed Restriction)といって、土地利用に関する形態規制を行い、それを公正証書にまとめ登記することで、土地の譲渡があっても、デイードは土地とともに離れることなく、一体的に土地利用を拘束する制度があった。そのため、「デイードは所有者とともに走る」とも言われ、デイードがあれば、それで土地利用規制が出来るため、都市計画法を制定しないでデイードだけで都市の空間規制をしている都市もある。)

住宅地経営管理協会(HOA:Homeowner association)

 住宅地管理協会は、本アグリカルチュラル・アーバニズムに基づく開発事業で定めた基本計画(マスター・プラン)と建築設計指針(アーキテクチュラル・ガイド・ライン)で定めたハードな計画を、同じく開発業者が住宅地経営管理基本契約約款で定めたルールを運営管理する自治団体である。


別の説明をすると、この開発地の住宅の資産価値を守るための経営管理法人である。この住宅地経営管理法人は、非営利活動法人として作ることだけではなく、社団法人、一般社団法人、組合法人、又は、株式会社として作ることも可能である。

住宅地経営管理協会の仕事は、居住者の生活基盤としての住宅地環境を維持管理する団体であることから、その性格は基本的に非営利活動であることから、ここでは非営利活動法人法に基づく住宅地経営管理協会としての標準定款を取りまとめた。


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