2013年6月1日土曜日

米国工務店による「サステイナブル・コミュニティの実現」

2013.05.21から23まで、つくば、宇都宮、新潟の3市で開催された北米建材セミナーにおいてHICPM(住宅生産性研究会)理事長戸谷英世氏が行った表記の基調講演が判りやすく整理されているので,このブログに掲載させて頂きました。

私はここに整理されている10項目こそ,日本の”まちづくり”と”家づくり”に導入するべき普遍性のある指針です。

サステイナブル・コミュニティとは,持続可能なコミュニティという意味です。

尚,HICPMメルマガのアーカイブスは下記URLにあります。
http://www.hicpm.com/


HICPMメールマガジン第508号(5月27日)より

 私の基調講演は「サステイナブルコミュニティの実現」である。それは「日米の住宅産業比較」という形で、住宅の資産価値が持続的に向上(サステイナブル)するための住宅経営を、10項目に分けて説明した。
 特に、米国の住宅バブル(2002~2007年)崩壊後、2008年からの住宅産業の回復を図る方策として、米国の住宅産業では、住宅のエンベロップ(外殻)の総面積を減らし、基本的に4出隅で造る「無理、無駄、斑」を最小限にし、生産性を高める対応を実施した。その結果、優れた住宅地での住宅取引価格は、この8年でバブル崩壊前の価格水準に戻っている。
 つまり、住宅購入者の購買能力(年収の3倍)に対応したコストカットと、住宅地の経営を「三種の神器」(基本計画,コミュニティ経営システム,経営管理協会)で行い、「人びとが住みたくなる売り手市場」を形成する住宅地経営を図った、ということである。これらの取り組みは、「住宅の生産性向上重視のホームビルダー経営」として、わが国が手本とすべき経営であることを示している。

「米国に倣う工務店の経営改善の10項目」

第1:住宅の資産価が持続的(サステイナブル)に向上する社会の建設
 米国においては、国家にとっても個人にとっても、住宅の資産価値が向上することが重要であるという共通認識ができている。
 住宅取得が個人の資産形成になるためには、住宅価格が購買力を基礎にすることでなければならない。個人資産価値の増大は、地方財政収入の基礎である固定資産税を増大する。
 住宅による「アメリカンドリームの実現」は、取得した住宅の資産価値の物価上昇率以上の増大にある。住宅による個人資産の増大が、個人年金制度や医療保険制度を補っているのが米国政府の住宅政策の基本にある。

第2.住宅の価値とその評価方法
 住宅の価値は住宅の需要と供給の関係で決まり、住宅ごとに固定的に決るものではない。日本では住宅会社が巨額の広告宣伝費と営業費用とを多額に掛けて販売した住宅は、購入者がその住宅を市場で売ろうとすれば、購入価格に締める広告宣伝や営業費用は含めることはできず、結果的に購入価格の半分以下になる。
 大手ハウスメーカーの直接工事費は販売価格の僅か40%程度(実際の価値の2.5倍の価格)である。その住宅を住宅購入者が売却しようとするとき、ハウスメーカーが価格に転嫁した営業販売経費は加算できない。住宅購入者がその住宅を市場で販売できる価格がその住宅の価値である。

第3.見積りと住宅の不動産評価
 住宅の価値を事前に評価する方法は以下の3種類である。日本も欧米と同じように3種類であるが、その評価方法には全く社会科学的合理性がなく、売り手の不正販売を正当化するものである。
 3種類の不動産評価方法は、原価方式(推定再建築費:見積もり)、相対販売価格方式(住宅の3効用:デザイン、機能、性能のウエイト評価と取引価格の相対評価)、資本還元方式(不動産賃貸料の資本還元価格)である。
 日本では非償却資産の住宅を償却資産と扱い、不動産を不当に粗末に扱ってきた。

第4.    モーゲージと建設金融
 日本以外のモーゲージローンの国では金融機関による融資の対象額は、住宅ローン返済不能になれば、不動産を差し押さえて債務は相殺され、金融機関は差し押さえた不動産を不動産市場で売却できる価格(直接工事費)として融資される。
 建設工事に対する建設金融は、モーゲージ予約した住宅に対し、金融機関は各下請け工事に対してホームビルダーが支払った請負代金相当の金額をその工事部分に先取り特権をつけ、建設金融として融資する。
 これらの国では、住宅の価値評価を金融機関も政府も実施しているが、日本では住宅の価値と乖離した住宅価格を全面的に認めてクレジットローンを行い、最終的には生命保険でローンを回収しようとし、融資対象である不動産自体の評価はしていない。

第5.    住宅融資債権(MBS)
 FHA(連邦住宅庁)は、1936年に銀行が設定したモーゲージに関し、クラシックデザインによる住宅に対し債務保証をした。それは「クラシックデザインの住宅」は、既存住宅市場で確実に売却できると判断し、政府はそのモーゲージに対し債務保証を行い、MBS(モーゲージ・バックド・セキュリティ)としてFNMA(ファニーメイ:連邦全米モーゲージ協会)に買い取らせた。
 MBSは金融2次マーケットを形成し、金融市場を潤沢にした。政府による債務保証の前提は、住宅の取引価格が最低融資期間、資産価値を維持向上する住宅地経営をし、その住宅デザインが陳腐化しないことにある。

第6.    ホームプランシステム
 FHAによるMBSが、クラッシクデザインに対し債務保証をしたので、確実の住宅金融が得られ政府の債務保証を受けられる住宅の設計図書の販売が、米国ではホームプランシステムとして普及した。
 一般消費者もホームビルダーもホームプランシステムを利用し、社会的な住宅の設計能力を、一挙に「資産価値を向上させられる住宅」を造る高い水準にまで向上させることができた。

第7.「三種の神器」
 住宅の資産価値を向上させ続けるためには、住宅地が常時、売り手市場として経営管理される必要がある。そのためには、住宅地のハードのルール(マスタープランと建築設計指針)と計画されたとおりのソフトなルール、罰則規定を都市空間の利用のための強制規程として、住民に遵守させる統治機構(HOA)をもつことが、肝要である。
 ルールは最終的に遵守が強制させられなければ効力を持たない。

第8.    住宅購入者の資産形成
 「住宅購入者の利益本位で建てられる住宅」は、住宅購入者の支払い能力の範囲で、そのニーズの最大実現を図るために、コスト(原価)の切り下げ、限られた支払い能力の範囲で、そのニーズに応えようと努める(米国)。
 一方、日本の「工務店の利益中心に考える住宅」は、プライス(販売価格)を重視して取り組み、「差別化」により、如何に実際の価値より高く住宅を買わせるか営業(日本)になる。

第9.    土地の高密度利用
 日本の地価は租税措置法で固定資産税が6分の一に割り引かれている通り、本来、課税標準地価を、事実上その6倍にすることで土地担保金融を実施している。異常に高い地価を、住宅価格に反映させないためには、リースホールド(借地法式)による住宅供給により地価を直接住宅の取引価格に関係させないか、タウンハウスによる低層高密度開発で、地価の住宅価格に対する影響を半減させることである。

第10.    建物のコストカット
 住宅の販売コストを切り下げる方法は、住宅の外殻(エンベロップ)面積を(キューブ:立方体)の形態として最小限化し、材料使用量及び労務量を最小限化する方法か、同時に、CM(コンストラクションマネッジメント:建設業生産管理)技術による「期間当り建設業者の利潤と職人の賃金」の最大化を図る製造業が採用してきた方法(OM:オペレイションマネッジメント)を採用する以外に方法はない。


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